かわいい、きらきらの女の子。確かに見てくれはとても可愛くて、声も高く澄んでいて、手なんかちっちゃく真っ白で、僕とはまったく違う生き物である、女の子。
だけれど僕は、恐がりであるんだ、とくにそういう女の子に対して。
僕は女きょうだいのただなか、男一人で育った。おねえちゃんが三人、妹が三人(そのうち末っ子の二人は双子なのだ)、僕はおねえちゃんたちと妹たちの真ん中で、おうちにはあと、お母さんとおばあちゃんがいる。
おじいちゃんはずっと前に亡くなって、お父さんは海外に出張しているから、おうちにはいない。お母さんは毎朝、お父さんに電話をかけておはようを言うのが日課だ。なんのへんてつもない、けれどすこし、家族形態が偏ったのが僕の生活の一部だ。
それはともかく、僕は女の子が怖い。
きらきらで、かわいい女の子ほど余計に怖い。なにを考えているか分からないし、少し力を入れようものなら、やっぱり甲高く叫んで、すごく怖い。
彼女は、いちか、という。一つの花と書いて、いちか。
そう本人が名乗ったのだから、多分本当だと思う。多分……。
女の子はすぐ嘘もつく。しかも、それが悪いことだと思ってない子だってたくさんいる。信じられないんだ。かわいくって、きらきらした、例えば恋愛とか、そういうものの前ではちょっとの嘘くらい、したっていいじゃないって言うのが女の子だ。
「ねえ、あなた私とどこかで会ったことがない? ううん、絶対にあるわ、そうよ私よ! 私の王子さま、こんなところにいたのね!」
そう僕の手を取って、飛びつき、まくしたてた一花は、とてもかわくてきらきらしていた。食べ物は甘いものに決まってて、ふわふわでピンク色をした夢の中で生きてるに違いない、不可解な動物だ。一花はその中でも、特別奇妙な生き物なんだ。
「ねえ王子さま、どうしてこっちを見てくれないの?」
「あの……なにかの間違いじゃないの、かな……」
「そんなこと! あなたが忘れているだけよ、だって私たちは前世からの赤い糸で結ばれているの。大きな運命の輪が私たちを切り裂いて、ねえでも、聞いて? 私には分かるのよ、だってあなたが私の運命の、永遠の伴侶だってことが!」
「はっ……はんりょお……?」
「そうよ! ああ、会いたかったわ! 私の王子さま、もうずっと一緒よ、前世で成し遂げられなかった思いを今こそ受け止めて。私の準備はとっくの昔にできてたの。だって私、生まれた時からずうっとずううっと、あなたを探してたんだもの!」
怖い。怖すぎる。なんでいったい、こんなかわくてきらきらした、ふわふわした思考の持ち主が僕なんかにかまうんだ?
はっきりと恐怖を感じだ一花との出会いは、僕がまだ小学校四年生の頃。
今じゃもうだいぶ年月も経っていて、僕は女の子が怖いばっかりに、中学高校と男子しかいない寮制の私立へ進学した。お金はたくさんかかって、うちはきょうだいも多いから大変だと思ったけれど、そのぶん僕はたくさん勉強をしたし、何度も学年のトップになった。奨学金をいただけて、ちょっとぐらいはお母さんとお父さんに迷惑をかけないで済んだのかな、と思う。
僕が女の子を怖がるのは、ぜったいお姉ちゃんたちや妹たちの影響が強いだろうけれど、最も僕に悪影響を与えたのは一花に他ならないんだ。
――それは成長した今でも変わらない。
僕は、女の子が怖くて仕方がない。
「りゅーうくんっ! 私の王子様! いるのは分かってるの、愛する恋人が一週間ぶりにやってきたのよ、早くお顔を見せて?」
僕は布団をひっかぶる。同室の高田が僕の方を振り向いたのがわかった。
「……瑠、呼ばれてんぞ」
「シカトしといて、シカト……いない振りを」
「無理じゃん?」
一花は毎週土曜日になると寮までやってくる。彼女の通う女子校は隣、男子校は道路を挟んですぐ向かいで、寮も高いフェンスを隔てて隣通しにある。『近いのに会えない』というのが適度なロマンスを生み出すのか、僕の同級生にも女子校に彼女がいる、という奴が何人かいる。僕はもちろん、そんなものはいない。女の子が怖いんだから当然だ。
それだというのに、一花は毎週土曜日、昼食時になると必ずこの双宮寮までやってくる。声高らかに、僕のことを訳の分からない肩書きで呼ばわりながら。
原則、女子寮の人間が男子寮に、男子寮の人間が女子寮に入るのは禁止されているにも関わらず、一花はあの手この手で毎週やってくる。おそるおそる、どうやって入ってくるんだと一度聞いたことがあるけれど、その時の回答は「管理人さんと仲良しなのよ」だった。絶対買収したに決まってる、なんて恐ろしい!
同室の高田は最初こそ驚いていたけれど、一年も一緒に共同生活を送ってくると流石に慣れるらしい。今じゃ彼が一花の対応をしてくれるまでになった。適当にあしらってもくれる。でも、そんなことで来るのを止める一花ではなく、いい加減僕はノイローゼだ。あの衝撃的な出会いからこれまで一日だって安心して眠れた夜なんてない。……それはちょっと誇張かな、しかし本当なんだ。
「りゅーくん!」
「うわああああああ」
「高田くん、こんにちは! うふふっ、私の王子様ったら、またお寝坊さんなの? りゅーくん、ねえ今日は一緒にお出かけする約束をしたでしょ? 早く起きて行きましょ、私お弁当も作ったのよ。りゅーくんの好きな甘酢付けした唐揚げも持ってきたわ」
どうして彼女が僕の好物を……! もはやこれはストーカーの域を越えている。電波だ。電波すぎる。怖い。
「……あのさ、俺ずっと思ってたんだけど、どーして一花ちゃんはこいつをオウジサマなんて呼ぶわけ?」
高田、そんな悠長な質問をしてる余裕なんてないんだよ。そんなの僕がとっくの昔に聞いてるんだから! 一花の回答はたったひとつしかない。いつまで経っても変わらない、このフランス人形みたいに可愛らしく、ふわふわしてて、きらきらした、角砂糖と紅茶だけで生きてるような女の子は、うっとりした声で言うんだ。
「だって、私とりゅーくんは前世から結ばれているのよ? 彼は私の王子様だったんだもの、だから昔の癖で、王子様って呼んじゃうの。うふふっ」
ああ、ジーザス、神様どうしてこんなことに! ひどいでしょう、僕を恐怖のどん底に突き落とさなくたっていいじゃないか!
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『怖がりな少年と前世から愛してると言う電波な子が恋に落ちていく物語』を書いてほしいとお題をいただきましたので、そのテーマで。
甘酢のから揚げってどんなのか教えてください。誰か。