健介は悪食だ。
調味料を渡せば、それが七唐だろうが醤油だろうがもう止めとけというまで際限なく使うし、そもそも飯の面倒を見てやらなければ一ヶ月ファーストフードもしくはチキンラーメンオンリーということも珍しくない。食わず嫌いも多く、かつ実際に嫌いな食い物も多い。好きなものは子供が喜びそうなものばかりだ。例えばカレーとかオムライスとかハンバーグとか、お子さまセットに必ずあるようなもの。
だが味覚のことはどうしようもない。俺だって百歩譲って仕方ないと思う。しかしそれ以上に健介は、食べ方がなんというか……汚い。「お里が知れる」とはまさにこのことで、二十五になるというのに未だ食べ方が直らない。
「このスパちょーうまーい」
俺が作ってやったミートソースのスパゲッティ、健介は実に美味そうに食う。食事に関してこいつに美徳があるとするなら美味そうに食うという一点しかない。
だが俺はいくら美味そうに食っていようとも、悪食だったり食い方が汚かったりすれば不愉快に感じるのだ。いくら金をかけた豪勢な料理だって、盛り方が適当だと食欲をそそられはしないだろう。俺はいつも健介のせいで食欲が失せる。
健介はスパゲッティを一本ずつ箸でつまみ上げながら食べている。普通そこはフォークだろうとか、一気に食えよとか勿論思う。口に出しもした。
だが、健介は箸で一本ずつ摘み上げながら(しかもソースをそこかしこに飛ばしながら)食べるのだ。しかもきちんと箸を持てていない。もっと固形物にしときゃ良かったと思うものの後の祭り、掃除が大変になるだけの食い方に、俺はいい加減げんなりした。
「おい」
「んあ? なにたっちゃん」
「もそっと綺麗に食えよ」
「飛んじゃうんだよー」
直す気もない返事が聞こえて、間延びした声はまるで仕事疲れの午後みたいにだるかった。俺は自分のスパゲッティの皿を引き寄せながら、健介の向かいに座る。
「あーほらまたこぼしてんだろーよ……ちゃんと箸持て」
「持てないしー」
「こーやって持てっつったろ、ほら」
わざわざ幼稚園児にするように手ほどきして教えてやらないと、健介は箸だって持てない。ぎこちなさそうに正しく持った箸を動かして、スパゲッティを一本ずつ拾っていく。次第に持ち方が崩れて、また元通り変な食い方になる。
こいつの面倒を見ていたら落ち着いて自分の食事も取れそうになくて、それでも面倒見てしまうんだから俺も大概だ。蓼食う虫も、と知り合いに言われたことがあるが、そんなの意識してるわけじゃない。気づいたらこうだっただけ、こいつにきちんとした箸の持ち方も、飯の食い方も教える人間が今までいなかっただけで。結果的に、俺が教えてやるしかなかったのだ。
「ったく……お前そんなんじゃ結婚もできねーぞこの先」
「うっそそれショックなんだけどー」
「当たり前だろ、食い方でいい顔しねーぞ女は。せめてこぼしたりすんの注意して食え」
「えー……でもさあ、いーよーたっちゃんご飯作りにきてくれるしさー」
付け合わせで出したサラダをつつきながら、健介が言う。そうやって箸で……っていうか食い物こづき回すのも俺は好きじゃない。食べ物は遊ぶものじゃないからだ。
いくら言っても直らないこいつを外に出すなんて、結婚どうこうの前にもっと心配で、なんというか長年こいつの汚い食い方を見てきた俺としては、なんとしてでも直したいところなのだ。本当に、一生このままだと駄目すぎる。
健介の甘えた言い方は子供そのものだったけれど、俺だっていつまでも飯を作ってやれるわけじゃない。単に家が近いのと、放っとくと本気でろくなものを食べないから、仕方なく世話を焼いてやってるのだ。早いところ誰かこの役変わってくれ、と思わないでもない。そうじゃなきゃ俺だって結婚できない。
「俺がご飯食うのへたくそなの、やだ?」
「やだっつうか、まあ……やだな。恥ずかしいし。外にも飯食いに行きたくないし」
「そっかー、んー」
「だからな、お前みたいな生活能力ない奴はさっさと気だてのいい嫁さん見つけて、ついでにその悪食と食い方直してちゃんと仕事しろ。お袋さん泣くぞ終まいには」
「あっそっかわかった!」
健介は俺に箸を向けて、口の周りをミートソースでぎとぎとにしたまま言った。そして箸を揃えて皿の縁に置くと、背筋をただして深々と頭を下げてきた。
「たっちゃんが俺のおよめさんになってくれたら直すの頑張るから、よろしくお願いします」
次に顔を上げた健介の表情は満面の笑みで、それは例えるなら給食で好物ばかりが出た日の小学生みたいだった。
「……マジで?」
「マジで」
そうすることで、こいつの食事に対するあらゆる悪癖が直るなら……。
思わず考えてしまうほどに、俺はこいつの食い方が嫌いだ。
***
汚い食い方がよくわからなかったむしろ