抜いたり××したり

 僕は人殺しだ。
 それも、かなり大量にえげつなく殺してる類の、そういう、人殺しだ。
 でもえげつないって思っているのは他ならぬ僕自身の主観的な感想だから、もしかしたら別段、おかしなことではないのかも。他の人と比べたことはないから分からない。言い方は変かもしれないけれど、僕よりもっと、その「えげつない」殺し方をしている人だっているだろう。多分。
 僕が殺す人はいつも違う。
 子供だったり、大人だったり、友達だったり、つきあっていた彼女だったり。いろんな人を手にかける。いろんな方法で、僕の陳腐な頭で思いつく限りの、シンプルで簡単な殺人を繰り返す。粘土をこね回して遊ぶような感じ。あの、とにかくぐにゃぐにゃした塊を、べったんべったんと突きまわして意味も無く遊ぶように。
 僕は人を殺すとき、いつだって冷静に殺す相手を見ている。じっと、泣き叫んだり、そんなことする必要もないのに僕に許しを求めてくる相手を、ただじっと見下ろして殺す。楽しいとか、嬉しいとか、あるいは快感なんてものは感じない。逆に、苦しい、悲しい、つらい、気持ち悪い、そんなことも別段感じているわけじゃあないけれど。
 今、僕の手には刃渡り二十センチくらいの刃物が握られている。銀色に光る包丁はいつ手に入れたのか覚えていない。まあ、大したことじゃないだろう。
 大事なのは、どうやって殺すかだ。どうして殺すかは、やっぱり重要じゃあない。どうして、なんて、僕にだって分からないんだから知りようがないだろう? 分かったところで、誰かにそれを理解してもらいたいなんて思わないんだ。人は他人の感情を、百パーセント理解するなんて不可能だ、絶対。
 右側にいた男の背中に突き立てる。縦に切り込みを入れる。
 ぐ、ぐぐ、ぐ。
 少し引っかかった。けっこう、人の体は硬い。
 力を入れて、払う。
 血がたくさん出た。
 生あたたかいけれど、妙に手に吸いついてくる。
 逃げながら、僕を見て叫ぶ相手の首の後ろへ、さらに突き立てた。うるさいラジオの電源を切るみたいな要領だ。難しいことじゃない。
 刃は皮膚に食い込み、突き破って、骨にごりっと当たった。柄の部分をしっかりと握って、何度か回す。何度も、何度も。
 やがて男が崩れ落ちた。
 崩れた男の体をばらばらにしようと、僕は無常にもまた刃を振り下ろす。
 僕の手には確かな感触があるのに、なにも音が聞こえない。
 感触だけが、ひたすら強くなって僕の体を包む。
 引き抜いた刃はてらてらと光っていた。
 なにも聞こえない代わりに、ざわざわとノイズがひどくなる。
 それは僕の体を包んだ何かだったのかもしれないし、それこそが聞こえる全ての音だったのかもしれない。わからない。どんどん、酷くなる。
 ざわざわ。
 ざわざわ。
 ざわ、
 ざざざざざ、
 っっざっざざざっざざ、
 ざざざざざざざっざざ、ざ、ざざざ、ざーーーーーー

「はよーっす」
「おはよーあー谷、ごめん」
 僕は谷口の顔を見て謝った。
 神妙な顔をして頭を下げる。
 谷口は笑っていた。
「なんかあったっけ?」
「うん。今朝さ、おまえのこと殺しちゃって」



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悪いなと思うから謝っちゃう