路地裏を少し入ったところで、キャバレーみたいな派手な格好をしたショートボブの女と、髭を生やした小太りな男が絡み合っていた。女が前で、背中から黒いスパンコールに包まれた薄っぺらい布みたいな服を――女の形よい胸をまさぐるろうと、男の太い腕が伸びている。女は妖艶という言葉がぴったりな笑顔を顔中に貼り付け、紫色をしたキラキラと光るアイシャドウが古びた街灯の下で踊っていた。喘ぎ声というよりは、いっそ楽しげな少女のような声がひっきりなしに零れている。足も腕も顔中だって、皮膚をべったり互いに貼りあわせていなければ生きていけないとでも言うように、段々とその行為は激しく強烈に、無秩序にエスカレートしていった。真っ赤なルージュは白い肌に鮮明だ。
彼女らは僕がいくら見つめようとも意に介さなかった。もしかしたら、気づいていなかったのかもしれない。逆に自分達の痴態を自慢するかのように、ぐにゃぐにゃと絡み合っている男女の形が彼女らの人格を犯していく。
僕は怖くなって逃げ出した。自分の影が、前方から後方へ長く短く、そして長く伸びてやがて消えた。心臓がどきどきして、けれど背筋からはすっと血の気が引いていくのが分かった。ああ、とんでもない、吐き気がする。僕の人格が壊れてしまう、ああ――
「――なあ、聞いたか。昨日ソーホーの近くで女が殺されてたんだってよ」
「知らないなあ、どんな女だ」
「それが娼婦めいたことをしていたって……まあ、俺も他の奴から聞いた話さ。新聞にも載っちゃいない」
「その女の名前って、分かるか?」
「なんだよ興味があるのか」
「あるとも。こんな真冬に真っ裸で殺された女なんて、他所じゃあ考えられないからな」
「違いない」
彼女の名前はエリザベートだ、と同僚は言った。
ああ、エリザベート。
僕の最愛で最低の少女、エリザベート、真っ赤なルージュと白い肌、スパンコールが大好きだった僕のエリザベート、ああ、エリザベート。
***
ソーホーってのは まあ適当です