愛のある正常位とは誰が言ったんだろう。いや、誰も言ってないかもしれないが、なぜかそんな言葉がぼんやりと浮かんで、そして一気に消えた。愛なんて遠いもののように、あるのはただ熱と痛みと疼きだけ。それを愛だの恋いだのと言える段階は当の昔に過ぎ去っていた。目の前にいるのはただの獣だ。世の中の女性たちがどれほどつらい思いをしているか、俺は今まさに経験していた。ああ、ほんと、なんかすみません。そりゃイヤにもなるよね、だって男はなんてーか、やりたくなったらそれですべてオッケーっていうか、それ以外に理由なんてあとからいくらでも付けられる生き物なんだよ、所詮。
「センパイ、……ね、なに、考えてんのさ、ちゃんとこっち見て」
「みっ……てる、よっ……!うっせえ」
そうです、さっきまで従順な、かわいげのある、如何にも「自分はなにもできません」というような顔をしていたくせに、これだ。あらゆる壁を乗り越えちまったこいつは、普段の気弱さをどこかへ投げ捨てて俺に命令する。前を見て、自分の醜態と、そしてこいつをどんなに意識しているかということを、俺に分からせようとする。だから正常位、こいつと俺の間にあるのは間違っても愛じゃない。これはただの支配とか略奪とか、ばかみたいだけど例えるなそういう言葉の方が合っている。
「きっつう」
あおるように、つながった部分をわざと見つめてどこか嬉しそうに言いやがる。こいつは絶対変態だ。じゃなかったら頭が狂ってるに違いない。舌っ足らずで、頭はバカ、勉強は出来ないし、気の利いたこともできない、おまけにKY。その上変態だなんて、最低だ。なんで俺はこんな奴にいいようにされているのか。
俺はもう苦しくて熱くて痛いもんだから、ろくな事ひとつも言えず、えろビデオの女優みたいに喘いでるしかない。いや、あんなに色っぽくて誘うような声は間違っても出ていない。喉の奥を潰されて、発音はままならない。ベッドシーツに後頭部を押しつけて、首を伸ばしてどうにか呼吸を楽にしたがってる。
「センパイ、かわいいの。いっつもそうだといいのに、……よがってんの、きもちいの?」
うるせえ、だまれ、だまって、もうやめろ。そう言おうとした口から溢れ出たのは唾液と混ざった荒い息だけ。宙を掻いた手は奴を求めたものだと勘違いされたらしく、指を絡める要領で捕まった。
ああ、もう嫌だ、なにも見えない。なにも見たくない。なにも感じたくない。
痛みがどこかに行ってしまって、残るのは終わりなんてやってこないんじゃないかと思いたくなる快感がひたすら、こういうことを気持ちがいいと感じ始めている自分にものすごく嫌気が指す。なにが一番嫌かって、こんなことをしてる合間にも俺の脳味噌は冷静にこの状況を判断しようとしているってことだ。冷静に、冷静に、今の自分を処理したい。あとで言い訳が出きるように。
そうして声を出してるのは俺なのか? それとも目の前のこいつなのか。鈍く感じる頭痛、それすらも自分の飲み込む息と一緒に分からなくなってしまう。
ああ、今、いったい何時なんだ。いつまでこうしてるんだ。そんな目で俺を見るな、そんな風に俺に触るな、もう、もう、分からないんだ。愛とか恋とかあるはずもない位置で俺を意識するな。この、大嘘つきめ。
「そんな顔しないでよ。だいじょうぶ、俺、ちゃんと、センパイのこと、あいしてる」
***
び えろ……? 判断がつきません
一応*付きにしておきました