(この中では私がおうさま)

 今日も機械音が狭い六畳の部屋に響く。フローリングだから階下は勿論、時々回るファンの音もカタカタカタカタ、逆回転してるんじゃないかと疑いたくなるように回り続ける。だが、それすらもこの部屋の中では真実。なにも嘘などない。自分自身に対する絶対の信頼と真実さえあれば、生きていける。それがこの部屋の中だ。自分はここから出なくていい、と彼はまた今日も目覚めてそう思った。
 遮光カーテンは開けない、窓も開けない。もそりと低いベッドから起き上がると、スリープ状態だったPCを立ちなおしてから日参しているチャットへログインする。と、同時にPCの横に設置してある父親から随分前に譲り受けたテレビと、接続してあるプレステの電源を入れた。

―キヨさんこんちはー
―ちわっすー
―もしかしなくても今起きたんですかww
―うはww何故ばれたしww

 カタカタと聞きなれたキーボードの音が響く。左手にはコントローラーを握って、こちらは見なくても分かるタイトル画面から今進めているデータを呼び出した。マウスは画面上の窓を増やして、ツイッターと某掲示板に繋ぐ。ツイッターはなんとなくだった。何を呟くわけでもないし、特定の友人が、ましてやオフライン上での友人などがいるわけでもない空間だったが、彼は好きだった。TLをざっと追って、再びキーボードを打つ。
 なににも縛られていない今がいいな、と思う。
 ネット上では限りなく自由な自分。何も心配しなくていいし、くだらない話しかないからむしろ気が楽になる。面倒な相手と知り合ってしまってどうしようもなくなったら切ればいいだけだ。手間は一切掛からない、移り変わりが激しい場所でもあるから次から次へと新しい話題にだって事欠かない。湾クリックひとつで欲しいものは大概手に入ったし、探せば自分と似たような境遇の奴だっている。人と会うことだけがコミュニケーションじゃない。――そもそも彼という人間は、人と話すということが本当に苦手だった。嫌い、と言ってもいい。顔色を伺って、お決まりの文句で繋がる友人関係、馬鹿みたいでアホらしくて、だから学校が嫌になって何度も登校拒否というものをやった。誰も自分のことなんか分かってくれない、……のではなく、自分から分かろうとしてないだけだ、という自覚は流石にもうこの年になってからあるけれど、それでもやっぱり、自分はこの世界に合わないんだと思わずにいられない。それほど、ここは窮屈だった。六畳の狭いフローリングの部屋の方が、よっぽど息苦しくなかった。
 起きてから一度も時計を確認していなかった。腹のすき具合から考えて、恐らく昼前ぐらいなんだろうな、という程度。けれど今食わなきゃ死ぬ、というような飢餓状態でもない上、自分はかなり燃費のいい方だと思っていたから部屋を出るようなことはなかった。水分だったら買いだめしてあるペットボトルがたくさんあったし、不便は特に感じない。「ささみ」という名のHNを持つ画面上の友人は、知り合って三年ほどになるが何かと話の馬が合うので、結構な頻度をもって会っている。勿論画面上で。男か女かも分からないが、多分男。年齢もそんなに離れていないんだろうな、と思う。

―キヨさん学校行ってないでしょw
―www 禁則事項です
―いやぜんぜん禁則じゃねーよ^^w 行こうよw
―ささみさんも行ってないじゃんこの時間帯笑
―いや、けっこうこれでも俺は行ってるから!そこ勘違いしないでほしいから!ww

 チャットをロムってる間はコントローラーを動かしてゲームの世界へ一時的にシフト。もうすぐ終わりだから、あと二周してやり残したミニゲーとかアイテムとか全部取ったら売ろう、そうしよう。いつものパターンだ。売った金と、派遣バイトの微々たる小遣いで新しいゲームを買う。
 光の全く入ってこない部屋は時間がないのも一緒だった。だが彼はそれでも良かった。他には何も欲しくなかった。携帯電話の電源は長いこと入れていない。誰も連絡などしてこないと知っていたからだ。




ひきこもり大学生 みたいな…
名前は健太くん