「ねーねー斎藤せんぱあーい!俺とデートしようよー」
「んで男とデートしなきゃなんねーんだついてくんな」
斎藤隆明、十八歳、性別男。高校は進学校と謳っているものの、学力レベルは市内で真ん中程度。中途半端な偏差値と、中途半端な将来像を持ったやつらが集まるような学校だ。ついでに言うと電車を降りて歩いて二十分くらいかかる坂の上に建っている。俺はそこに通う一般的高校生男子だ。体育と世界史と古典だけは学年上から数えた方が早い頭を持っている。分類するなら文系。数学と科学はアウトだ、一生付き合いたくないリストに既に羅列している。友達になれなかったってやつ? 冬を前にして、そろそろ大学進学へ向けた勉強に本腰を入れ始めている。入れ始めるのが遅いといろんな人に言われたけど、俺の夏はバイトと遊びに死力を尽くしていたんだ、だって最後の夏だしね。高校生男子として楽しい夏を過ごしたかったわけだ、彼女とか連れて歩いたりしてさ。
「そんなあ。せっかく先輩のだーいすきな青い宇宙人持ってきてあげたのに」
「青い宇宙人とか言うな。お前馬鹿にしてんだろバイト先に言うぞ」
「著作権の関係で口に出すのが怖いでーす。でも先輩、ほら、いらないの?」
「……」
だが、俺の夏は可愛い彼女を連れて歩くどころか、このクソメンドクセー後輩につきまとわれて終わってしまった。一体どういうこった。
鴇田が見せてきたのは、手のひらより大きい程度のぬいぐるみがくっついたキーホルダー。ゲーセンとかおもちゃ売り場にある類の安っぽいものではなく、奴がバイトをする某夢の国限定でしか売られていない由緒正しきキーホルダーである。だが携帯に付けるにはちょっと重そうだ。最近はカバン専用のキーホルダーみたいなのが女子の間で流行ってるらしいから、多分それだろう。ハワイを舞台に年端さもない少女を暴れる、ちょっと不細工で濁声の可愛い青い宇宙人。名称は奴が言った通り著作権以下略だ。俺はその青い宇宙人が好きで好きで仕方ない。携帯にもノーパソにもステッカーを貼ってるくらい好きだ、だって可愛いじゃんよ。
「九月から新しく入ったばかりの新商品です!ほらっ見てみてーここ口開くんですよ。可愛いっしょ、先輩こーいうの好きっしょや」
「サンキューそれだけ寄越してさっさと帰れよ鴇田」
「じゃー俺とデートしてくださいよ」
「……」
さっきからこの繰り返しだ。俺は早く帰りたいってのに。大体こいつ、今日バイトないのか、ないのか妬ましいなオイ。ただでさえ夢の国アルバイターだってのに、こいつの実家はその夢の国周辺に位置しているというから妬ましい。自転車で行ける距離だとかほざくから妬ましい。俺だって夢の国にチャリンコで行きたいわ!
「あのさあ……お前さ、夏から思ってたんだけど、なんなのそれ。デートしてくれとか好きだとかさ、男相手になに言ってんのいい加減? 温厚な俺だってそろそろ飽きてくるぜ」
「いやーだって、俺先輩のこと好きになっちゃいましたしー……メーワク?」
「メーワクだよぶっちゃけると」
「ぶっちゃけないでくださいよ傷つくじゃんよ。――ま、良いんですけど」
こいつは、鴇田は、今年の春に入学してきた。部活が同じで、そっから仲良くなったはいいけど、俺が夢の国好きだと知ってからその懐きっぷりに拍車が掛かって今に至る。
年下に懐かれんのは別に嫌いじゃない。弟と妹がいるせいで面倒を見るのは慣れてるし、うるせーのも特に問題ない。後ろをちょこまか付いてくんのも加減が分かれば無理なくすごせるくらいのキャパは持ってるつもりだ。
でもさあ、どうなのよ。俺は男だよ鴇田。お前、それ分かって言ってんのか? ヘラヘラ笑いながら、俺に夢の国の箱菓子やぶさ可愛い宇宙人のキーホルダーを毎度貢いでくるこいつの真意が分からない。分かりかねる。
好きだなんだと言われたのが、夏休み前だ。それから一ヶ月、俺は気まずくて仕方なかったっていうのにこいつは相変わらずの態度で、海遊びも花火大会も夢の国ウォーターサービスにも全部付いてきやがった。俺の平穏な夏を返せ。あれから、あの言葉以上のアプローチは何も無い。ただヘラヘラ笑って、おんなじことを毎日飽きもせずに繰り返すだけ。犬に懐かれたと思えばいーってか。でも、こいつは犬じゃねーし、俺は犬なんか嫌いだ。臆面もなく声に出して好きと言われることの重さを、こいつは分かっちゃいない。
鴇田はキーホルダーを俺の方に放り投げて、顔の横で手を握って開いた。子供がする手遊びみたいな仕草だ。俺は胸の前で受け取って、やっぱり不細工で可愛い宇宙人の顔を見つめる。
「んじゃ、また明日ー先輩。あっ明日一緒に昼飯食いましょーよ」
「……いーけど別に」
「やったねーへへっ!じゃーお疲れっすー」
反対方向に向かって自転車を飛ばしていく鴇田の後姿を追いかける。
ああ、俺の平穏返してくれ。
*
鴇田くんと斎藤先輩