テレビの天気予報見るとさ、最近「乾燥に注意しましょー」なんて言ってね? お天気おねーさんがさ。なんかいきなり日が落ちんの早くなって、いつの間にか気づいたら真っ暗だしさみーし、空気も乾燥しますよって雰囲気満載じゃん。お天気おねーさんのなっちゃん可愛いよな、マジ毎朝あの笑顔に癒されて家出るもんマジ。顔とかちっちゃくね? っていう気がすっし、朝はえーだろうに画面の向こうにいる俺たちに笑顔を向けてくれるなっちゃん……天使か。早朝の天使。
まーぶっちゃけ、もちろん俺の心を毎朝ってか毎日毎晩いつだって癒してくれんのは高遠なんだけど!!
なっちゃんには浮気じゃねーって、ていうかなっちゃんと高遠だったらふつうに考えて高遠じゃね? 高遠のが可愛いし、なっちゃんにはないエロさっつうか、美人っつうか、俺の心ゆさぶっちゃうホットリミット的な魅惑のマーメイドっていうかあ! 乾燥とかどーでもよくなるくらい俺の心はうるうるに満たされまくるっつうかあ! うるるとさらら? みたいなあ!
「いてえ」
「どしたの高遠」
「口切った」
「んー?」
俺は高遠が隣にいてくれるだけで水分濃度120パーくらいで潤ってんだけど、高遠はそうじゃないっぽい。心はたぶん満ちてるはずだけどな! 俺の愛で!
高遠は眉を寄せて不機嫌そうに自分の口を押さえた。
俺が見して、ってつもりで手を伸ばすと、切ったというその口元を見してくれた。口っていうか、高遠の薄い唇の下のほう、真ん中より少し左寄りの膜が剥がれて赤く血が滲んでた。高遠はチッ! って舌打ちをしてから自分のベロでその血が出たとこを舐める。えっ俺もしかして誘われてる? ちょおおおえろいって高遠ォーだめだよ学校じゃん今あ!
「ガン見すんなきもい」
「えっちょっとよく見してみ痛そうじゃん」
「だから痛いっつってんだろ」
「高遠の血がもったいねえ……ってか乾きまくり? がさがさじゃんよ」
あっ高遠うわあって顔した! なんだよーそんなささいなとこにまで気づいた俺の観察眼に感服した? ちょっときゅんってしたっしょや今! そりゃまー俺は高遠の体調管理だってしてますし? わかるに決まってんじゃんさ、ちなみに今朝の朝食はオムレツだったろそーだろ!
「ストーカーか」
「ちがう」
「しねよ」
「な、高遠、リップとか塗れば」
「リップう?」
はあ? って感じに高遠の唇が開いた。
そーだよリップじゃん、この時期からっつったらリップじゃんマジ俺の思いつき最高じゃね。でも高遠はなんでって顔をして、そのまま俺に「なんで」って言ってきた。以心伝心すぎてときめいちゃう俺。
「だってさ、がさがさじゃんよ」
「別にいーし」
「切れると痛いっしょや今みたいに」
「舐めれば治るべ」
「もったいないじゃあん!」
「あの気持ち悪いんですけど」
「つかさ、とにかくさ、なんか見た目からしてすげー乾燥してますって感じだしょ、なんか塗ったほーがいーって! 俺今持ってっし塗んなさ!」
じゃーんどこにでも売ってる薬用リップ特売品、ちなみに二本で百五十円。安くね? いや俺が買ったんじゃなくって、俺の兄貴が買ってね、その半分もらったっつーか一冬にふたつも要らんとか言われて俺にくれた。ちなみに妹に先にやるよって言ったらしいんだけど、あいつヒデーことに「彼氏にもらったの塗ってる」とか言いくさって兄貴ちょい地味にへこんでたんですけど。うける。ざまあ。
俺はリップの蓋を外した。ん、って言って高遠に合図して、高遠を見た。でも高遠はわけわかんねって顔をして、眉を寄せたまま俺を見返す。そんな見つめられると素直におしゃべり出来ないんですけどお。照れるし。
「ほらあ」
「なんだよそのホラっつうのは」
「口貸してって」
高遠はまたうわあって顔した。んもーなんだよそのかわいい顔は! それから椅子ごと俺から体を離すみたいに距離を取る。三十センチくらい、がががって椅子が動いた。俺も椅子を三十センチくらい動かす。
「塗ってやんよ」
「いらねえし」
「遠慮すんなってー! まじ、ちょいちょいって塗るだけだし」
だってさ、想像してみ? 高遠の唇ね、マジがっさがさなんだって。見た目からしてやばいんだって。高遠の顔がきれーで可愛いかわり、そこだけ妙に目立つんだ。もちろん俺は高遠を愛しちゃってるから、アバタもえくぼっつうか、そんな高遠の小さな欠点みたいなとこだって好きだ。
でもさ、やっぱ気になるじゃん。キスした時とか、さわった時にがさついてんなあっつうのが気になるじゃん。ダメじゃねーんだけど、そりゃあやっぱがさがさよりはつるつるっつうか、うるうるっていうか、とにかくキレーな方が俺だっていーなーって思うジャン。高遠は女子じゃねーんだから、身だしなみにそんな気遣わなくたっていーけど。いや遣わなくても高遠はすげーいいよ! なんつーのこう醸し出す雰囲気っつうかいいよ! なにからなにまでいとしくって大好きに決まってんじゃん。
「だからお願い塗らして」
「きもいしねよ意味わからんってかお前それしてーだけだろ」
「そうです!!」
「しね」
高遠ってば手厳しいよ! 秋口だってのにまるで真冬の極寒だね、でもそんなとこも好き。俺はリップを持ったまんま、高遠に顔を近づけてお願いしてみる。
あーこうやって近くで見るとさ、高遠ってほんときれーな顔してんだよ。今更だけど。外で走ってる奴には見えないっていうかさ。俺がどきどきしてんの伝わってんじゃねーのかな、だってこんなに近いんだもん伝わっててもおかしくねーし、むしろ俺の愛とかどきどき伝わってほしーよ。そんで高遠もどきどきしてほしーんだけど、とにかく今はリップ塗ることが俺の使命じゃん。
「目つむってって」
「うぜえ」
「ほらあ」
でもさ、高遠は絶対目つむってくれんだよ優しいからあ。瞼が落ちると睫がきれーに並んでんのが見えて、俺は高遠のめがね外したくなったんだけど止めといた。さすがにね! だってここ学校じゃん放課後っつったっていつ誰が来るかわからんし。別に俺はみんなにね、俺と高遠のめくるめく日々とかあ、気持ちとかあ、なんかバレてもいいんだけどっつうかむしろバレた方が悪い虫寄らん気がしてるけど、それで高遠が機嫌悪くなんのもなあ。高遠ってば照れ屋だからさ! 羞恥プレイは二人っきりでしたいわけだよ俺も、だって高遠の照れてるとこなんてえろすぎて可愛すぎて誰にも見せたくない。マジやべーからってことだけ教えておく。
ちょっとだけ上を向くみたいに顎を持ち上げた高遠のほっぺたに片手をおいて、そんで俺はリップを塗った。
うわーなんか、えっろい……。うまく滑らないリップが高遠のがさがさの唇にのっかって、透明な膜みたいな油分が色づいていく。たぶんこれって高遠の唇の色な。男に口紅とかいらねーのってこーいう感じがするからじゃねーの? 人肌っつうか、うまく言えないけどそーいう色って気がする。自然な色じゃん。こーいう方が色っぽい。
「……もーいーだろ離れろ」
「もうちょい」
「塗り終わったろ」
「高遠食べちゃいたい」
「きもい」
「ちょっとだけ! ちょっとだけマジえろかわいいマジ」
「きしょい」
「ちょっと傷つく」
ほんと、ちょっとだけだって! 欲情すんなって方が無理なんですだって高遠えろいんだもん。かわいんだもん!! 油が乗って、平均よりはまだがさついてるにしてもうるうる度のアップした高遠の唇、これね俺がやったと思うともんのすごく愛しいわけ。食べたい触りたいキスしたいさせてさせてほんっともー高遠大好き。
椅子を寄せると高遠のとがつんってぶつかった。これ以上椅子じゃ近づけねーわ。キスだけでいいからって思って顔を近づける。
「キスだけ」
「きもちわるい」
「高遠好きだよ」
「知ってるよ」
「キスだけ」
「ここ学校なんで止めてください」
「じゃ帰ってしよ」
「一人でしてろ」
「好きだよ高遠。すげー好き」
「知ってる」
高遠ってばマジ優しいんだよなあ。結局さ、優しくって俺が好きなの知ってるから高遠は受け止めてくれんだよ。それが照れてるからだってことも、学校だからつう理由だけだってことも俺はちゃんとわかってる。大丈夫知ってる知ってる。キス一回したらもっとしたくなるもんな! 高遠ってばじらすのだって上手すぎて俺ぐらぐらしちゃうよ? 早く帰って高遠とキスしたいなーマジ。そんでリップが落ちたらまた俺が塗ればよくね? そーいう相乗効果みたいな? だから俺秋って大好き。
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秋にあげようと思ってたんですが、見事に時期ずれました。