君がいる夏

「高遠、浴衣めっちゃ似合うな」
「どーも」
 もう俺はメロメロだよ、メロメロ! めろりんラブってなんだっけ、とにかくそんな気分! みたいな!
 高遠は息を吐きながらだるそうに、洗い立てと見える前髪をタオルで拭いた。あーもう、そーいう仕草とかもーツボすぎっから! すっげもうエロい。えろすぎる! 今日の高遠はいつもの3割り増しでエロい。どうしてそんなエロいかっつうと、今日俺と高遠は、夏祭りデートするわけだよ!
 高遠が着てるのは黒っぽい地に灰色の線が縦に入ってる浴衣だ。俺はTシャツとジーパン。それどしたんって聞いたら、姉貴が作ったって高遠は答えた。
 その高遠のねーちゃんは、俺が高遠を迎えに着たとき玄関先に出てきて「いらっしゃい遠くん」っていつも通り言った。あいっかわらずえっろい格好してんだよこのねーちゃんも。胸でけーし。つーかブラつけてねーんじゃねーのとか思いながらもそこばっか見んのはシツレーだから見ない。
 高遠のねーちゃんはこれでいろいろ資格とか持ってるらしくて、手先も器用だからこうして高遠の浴衣とか縫ってやるらしい。なんでチャトレとかやってんのか不明だ。
「あっちい」
「ええーも、高遠……えろ」
「きもいし」
「浴衣マジ似合う」
「どーも」
 窓の外からはもう祭りばやしの音が聞こえていて、日が暮れてんのにどっか明るい。駅前の大通りから文化会館の方まで約二キロにわたって続く祭り会場は人も多い。もちろん地元の奴らもたくさん来るけど、今年俺は高遠をこの祭りに誘うことに成功したわけさ。
 だって高遠人混み嫌いなんじゃん。人混みっつーか、なんかごちゃごちゃしてるとこっつーか、まあだから俺が誘っても半分くらいは無理かなーとか思ってたんだよ実は。それだったらそれで別のとこにデートでも行くつもりだったんだけどお……なにこのサービス。浴衣だよ浴衣!
 襟元から覗いてる項がしっろいの高遠。んで風呂上がりだからちょっと汗ばんでる? ってーの? 濡れてる感じがたっまんねーもーそんな高遠が俺の横にいんだぜ! 扇風機の前で涼んでる。もうすぐしたら出かける予定で。
 高遠は陸上部だから毎日、いや高遠毎日部活行ってねーけど、でもほとんど外で走ったりしてるはずなのにあんまり焼けてない。そりゃさ、多少は焼けたかもって思うけど、夏休み入る前とほとんど変わってねーように見えるんだ。陸部のユニフォーム着て外走って汗かいてる高遠はすっげえ美人だしえろいし最高だけど、こーいう和風美人みたいな高遠もいい!
   そんな俺の熱い視線に気づいたのか、高遠は汗の引いた額をタオルで拭いて眼鏡を掛けなおしてから、俺の方を見て「行くか」と言った。
 ……ちょ、聞いた? 行くか、だって、行くかって!
 なにその言い方! 甘く囁くように微笑んだりして、恋人同士じゃんもおお! いや俺と高遠はコイビトドーシですよもっちろん!! なんか再確認ってーか!!
 っあーもーこんなえろい高遠をつれて外歩くなんて犯罪じゃね? だいたいさ、高遠は美人なんだよ。口は悪いけど。それを許しちゃえるくらい美人でかっけくてエロいんだぜ! それをさー知らん人の前につれてくのはどうよ、って俺は今更ながらに不安になってきた。もういっそえろい高遠が犯罪だよもう。頼むから盗むのは俺の心だけにしてください!
「なに言ってんだよきもいな。――行ってくる」
 後ろの行ってくる、は階段上にあるねーちゃんの部屋に向かって高遠が言った。玄関に出してあった草履を履いて、緑色のエコバッグを持つ。よくスーパーとかでオバチャンとかが持ってるやつな、折り畳めるタイプの。
「どすんのそれ」
「焼きそばとお好み買ってこいって。あと佐世保バーガー」
「佐世保バーガーあんの?」
「知らね」
 高遠は思った以上に機嫌がいいみたいで、笑って言うと太鼓の音がする方へ歩き出す。俺も隣で並んで歩き出す。
 駅までは歩いても一五分くらいだ。チャリだったらもっと早く着けるけど、人も多いしだいたい高遠はこの素敵浴衣のおかげでチャリには乗れない。いや俺の後ろに乗ってもいいんだけど高遠は照れ屋だから多分嫌がるだろーなー。
 電柱と電柱の間に商店街とか企業団体の名前入り提灯がぶら下がり始めてきて、それは夜風に揺れていた。高遠は提灯を見上げながら言う。
「あー、俺、あれ食いたいわ」
「どれ? 串焼き?」
「そー。豚の。なんか分厚いやつ」
「んじゃそれまず買おうぜ、あとなんか冷たいのも買うっしょ」
 まあこうして高遠の家を揃って出て、日が暮れた涼しい夜道を二人で並んで歩いちゃったりして、けっこうこの雰囲気がいいんじゃないのと思ったら、えろい高遠を外にさらすのも我慢出来るっていうか。正直この雰囲気捨てがたいよね、うん。高遠なんか機嫌いいし。やっぱ涼しいからかなー夏は夜がいーよ。家ん中でクーラーばっかってのもやっぱ体に悪いし、ってか高遠はちょっと冷え性だから冷房病とか心配。本人も炎天下イヤみたいだけど家んなかで寒いのもイヤみたいだし。もー敏感さんなんだからなあ、高遠ってば!
 あとはほら、手とかね、繋げたら最高だ。せっかくの夏祭りだし、なんか高遠浴衣着てっし、あと夜だし? これから混雑してる中に行くわけで、はぐれたりしたら困るじゃん。もうこれ某ジンタさんの夏祭り状態に等しくね? はぐれそうな人混みの中で「離れないで」っつって手とか出しかけちゃうんだろ! 俺はつなぐけど! 好きだって言えないとかねーけど! 君がいた遠い夏にしないって高遠!
   だってほら俺こんなに高遠が好きだし、大好きだし、あと愛してんだって。ほんと、ああもう好きだなーえろいなー高遠好きだマジ好き。
「なー高遠君」
「なんだよ」
「すげー好き」
「死んどけ」
「高遠も俺が好きっしょや?」
「きもいからその発想」
「照れちゃってさー」
「やっぱ死ねば」
 でも高遠は俺と夏祭り行くんだよね、浴衣でね、ちょーえろい感じで、かつ可愛くって美人な雰囲気でね。何度言っても言い足りないんだってこの事実。
「ほらよ」
 と。駅前近くになって、人がどんどん増えてって歩きにくくなってきた道の途中で、高遠が言った。俺が高遠に見ほれていたら、コントローラを投げるみたいな無造作さで、俺の目の前に手が出された。
 どしてそーいうことをさ、こう、絶妙のタイミングでやってくれんの高遠?
 それがものすごくいとおしくって、俺ってばほんっと愛されすぎて死にそう。今すぐ死ねるよ? いやでも死ねない、これが夢でも死ねない。だってそれが高遠への真実の愛ってもんだろう!
 手を取るために、手を伸ばす。しっとり汗ばんだ高遠の冷たい手が気持ちよかった。

 
 
  ***
きみがーいたなーつーはーとおいーゆーめーのなかーあー ってことです、つまり
あとこれ一回消えてすごくあれ すごくショックでした(夏)