君の為に悩む日々

 今日は高遠が学校休みです。
 午前七時きっかり五秒前、俺は毎朝と同じように高遠の家の玄関ベルを鳴らし「おはよう高遠!」と声をあげたら、高遠のねーちゃんが「おはよう遠くん」と答えた。
 高遠のねーちゃんは高遠の体におうとつを付けて唇を厚くして女の色気を付け足した感じだ。二十三歳職業フリーター、最近はライブチャットかなんかのバイトをしててこれがいい稼ぎになってるらしい。この前俺も奢ってもらっちゃったし。
 普段なら出てくるのは高遠だ。高遠のねーちゃんじゃなくって。聞けば高遠は風邪を引いたらしい。インフルエンザかどうか今日医者に診てもらってくるってねーちゃんは言ってて、俺は「そうっすかーじゃあまた夕方きまーす」つって学校へ向かった。それが七時二分。
 高遠のためにノートでも取れたらよかったんだけど、あいにくと俺は高遠ほど頭がよくないからノートは止めた。その代わり貰ったプリント全部に高遠の名前を書いて無くさないように保管完了。四限の体育は高遠の分まで頑張った。体育の帰りついでに陸部に寄ってみると、何人かの陸上部員がたまって早くもランチタイムなう。あー俺も腹減ったなー。ちょうど部屋の奥でジュースを飲んでた部長に、高遠は風邪で休みますと伝える。部長はそっかと軽く言って納得してくれた。
 時々思うんだけどあの野球部みたいな頭した部長は、ちょっと高遠に気があると思うんだよね。本当高遠はモテるから困るんだよ! 色気があっかんね高遠は、今も布団の中でぜえぜえやってんのかと思うとすごいドキドキする。
 お見舞いは何がいいかな。高遠は朝食りんごヨーグルトが好きだからそれにしようかな、朝じゃねーけどきっと朝食なんて食ってないだろーからま・いっか。あとはプレミアムロールケーキだろーポカリだろーあっファミ通買って帰んなきゃヤバい。
「遠藤ー今日ゲーセン寄って帰んね」
「あー悪い寄るとこあっから無理だわーすまん」
「ついでに寄ってけば良くね」
「や、買いもんだし。ってか今日うち親いないしさーまた明日とか行かん」
 クラスメイトの攻撃をかわして鞄を背負う。財布ん中を漁って二千円発見、高遠へのおみやげもオッケーだし俺のファミ通もオッケーだろう、多分。最後に教室の窓を閉めて高遠の机に寄って中を確認。よし、なんもねーな。ラブレターとかあったら破って捨ててたとこだけど、今日は実害はないらしい。
 高遠、明日だったら元気に学校出てきても大丈夫だかんね、俺が保証すっから。と心の中で高遠の机に向かって呟いた後教室を出た。
「遠藤ー」
「陸部部長」
「なあ、お前高遠んち近いんだよな?」
「えーまーそうっすけどおー」
 なんだよ野球部みたいな頭しやがって、やっぱ高遠のこと狙ってんな? そんな俺はイケメンですみたいな顔したって高遠はお前なんか眼中になくってアウトオブ眼中なんだかんな、わかってんのか部長。
「部室にさ、高遠が忘れてってるウェアとかあるから、よかったら持ってって届けてくれないか? ずっと置いとくと俺たちも大変だしさ。昼間言うの忘れちゃって」
 ――なぁーんだ! そーいうことかよ、早く言いなよ部長! 悪かったよ野球部みたいな頭とか言ってさー!
 申し訳なさそうに顔の前でチョップの動作をした陸部部長はそのまま正門を出て外を走りに行った。俺はそれを最後まで見送るなんて無駄なことはせずに行きなれてる陸部の部室まで歩く。
 部室には伝統と格式ある感じの習字で、木の板に「陸上部」って書いた看板が吊ってある。高遠がいない陸部室になんて用はほんとだったらないんだけど、高遠の服が! 待ってんならしょーがないよねー! というわけでノックを三回してからノブを回す。
 高遠のロッカーは真ん中の左ふたつめ。高遠の悪いとこはロッカーに鍵をかけないとこだ。なんか盗られたらどうすんだろ高遠。高遠の私物を盗むなんて言語道断? 勧善懲悪? みたいな? 俺がユルさん! とか、そういう。ドロボーはいけないことだかんね、やっぱね。
 目当てのウェアはすぐに見つかって、高遠がいつも使ってるビニールバッグにそのままつっこんで肩に背負って部室を出た。荷物は二つ。コンビニに寄ってさらに荷物を増やしたら高遠の家に向かおう。インフルエンザじゃなきゃいいんだけどなーと俺はぼんやり思う。いくら色気があっても、インフルだとかわいそーだし流石に。
 高遠が休みだと気分がのらない。別に高遠がいなくたっていいんだけど、でも高遠がいないってことはつまり、そういうことじゃん。高遠具合悪いのはさ、別に俺のせいじゃないし誰のせいでもないんだけど、ちょっと寂しいっていうか、やるせないっていうか、俺は高遠が心配でたまんないわけ。愛しちゃってるから高遠がどうなってんだろうとか、すんごく気になっちゃう。俺がいなくて不安じゃないかなー俺のことすげー好きだもんな高遠はあれで。うん、あれで実は愛のかたまりみたいなもんだよ高遠、えろいし。
「ってわけだからさ! これな、朝のりんごヨーグルト好きっしょや? あとねーあとね、ポカリ買ってきたったから飲めよ! 水分とってさーあとウェアおばさんに言って洗濯出してもらったから。あ、これ今日のプリントな数学と古典ぜんっぜんわかんなかったからやる価値はないと思う」
「早く帰れよきもいから……」



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別にいつも通り 流石に風邪だと高遠も元気はない